法人のお客様から研修のご相談をいただくとき、費用の話のあとに、決まって出てくる質問があります。「これ、助成金は使えますか」。
実は私たち自身も、社内の外国人スタッフ向けの日本語研修で助成金を利用しています。申請書類を揃え、労働局に計画を出し、実際に受給するまでを一通り経験しました。その立場から申し上げると、中国語研修に助成金は使えます。ただし、使えない場合もはっきりとあります。
この記事では、その境目がどこにあるのかを整理します。社内で検討を始める前に、人事や総務のご担当者に押さえておいていただきたい内容です。

対象になるかどうかを分けているもの
厚生労働省の支給要領には、助成の対象にならない訓練が列挙されています。語学に関わる部分を引用します。
日常会話程度の語学の習得のみを目的とする講習
厚生労働省「人材開発支援助成金 支給要領」助成対象とならない訓練より
趣味や教養として語学を学ぶのは対象外、という趣旨です。裏を返せば、業務上の必要から学ぶ語学は対象になり得ます。「語学研修だから対象外」でも「語学研修だから対象」でもなく、見られているのは研修の中身のほうです。
私たちが日本語研修で助成金を使えているのも、理由は同じです。対象にしているのは日常会話ではなく、報告や打ち合わせといった実務の場面で使う日本語だからです。中国語でも考え方は変わりません。
たとえば、次のような研修は職務との関連を説明しやすいものです。
- 中国拠点へ赴任する社員が、現地の業務を遂行するために学ぶ
- 調達や品質管理の担当者が、中国の取引先とやり取りするために学ぶ
- ホテルや小売のスタッフが、中国語圏のお客様を接客するために学ぶ
- 営業担当が、中国系企業との商談のために学ぶ
反対に、受講者の職務内容と研修内容が結びついていない場合、説明は難しくなります。カリキュラムに「日常会話コース」とだけ書かれていれば、なおさらです。
ここは実務上、書類の書き方でずいぶん変わる部分でもあります。同じ内容の研修でも、「中国語会話 初級」と書くのか、「中国工場との品質管理業務に必要な中国語(電話対応、不具合報告、数量確認)」と書くのかで、読む側の受け取り方は違ってきます。計画届を出す前に、受講者の職務と研修内容を一枚の表に並べて整理しておくと、あとの説明が楽になります。

使えるコースは主に3つ
中国語研修で候補になるのは、人材開発支援助成金の次の3コースです。会社の状況によって、どれを使うかが変わります。
| コース | こんなときに | 経費助成率(中小企業) |
|---|---|---|
| 人材育成支援コース | 職務に関連する中国語を、社員に学ばせたいとき。最も基本的な選択肢です。 | 45% (賃金要件等を満たすと60%) |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 中国市場への進出、越境ECの開始、中国拠点の新設など、新しい事業展開に伴って中国語が必要になったとき。 | 75% |
| 人への投資促進コース (自発的職業能力開発訓練) |
社員が自発的に中国語を学ぶ費用を、会社が負担する形にしたいとき。 | 45% (賃金要件等を満たすと60%) |
大企業の場合は、人材育成支援コース30%(賃金要件等を満たすと45%)、リスキリング支援コース60%、人への投資促進コース45%(同60%)です。経費助成とは別に、賃金助成が1人1時間あたり中小企業800〜1,000円(リスキリング支援コースは1,000円)加算されます。
意外と見落とされているのが、2つめのリスキリング支援コースです。助成率が最も高いうえに、「中国に進出することになったので中国語が要る」という状況は、まさにこのコースが想定している場面にあたります。令和8年8月3日の改正では、このコースに設備投資加算も新設されました。中国関連の新規事業が動いているなら、一度検討してみる価値はあると思います。
また、東京都内でインバウンド事業を営んでいる場合は、(公財)東京観光財団の「インバウンド対応力強化支援事業補助金」という選択肢もあります。補助率は補助対象経費の2分の1以内(多言語対応に関する事業は3分の2以内)、上限は施設・店舗単位で300万円。補助対象事業に「インバウンド対応に係る人材育成(研修会開催等)」が明記されています。対象は都内の旅館・ホテル、飲食店・小売店、体験型コンテンツ提供施設などで、令和8年度は令和9年3月31日まで受け付けています。
実務でつまずきやすいところ
制度そのものより、運用の細かい条件でつまずくことのほうが多いように思います。私たちが実際に申請してみて、ここは事前に知っておいてよかったと感じた点を4つ挙げます。

相談のタイミングが遅い
職業訓練実施計画届は、訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ提出する必要があります。研修が終わってから申請する、ということはできません。
逆に言えば、研修の相談を始めるべきなのは、開講したい日の2か月以上前ということになります。カリキュラムを固め、計画届を作り、提出するまでにそれなりの時間がかかるためです。4月開講を考えているなら、年明けには動き出しておきたいところです。
訓練時間が10時間に届かない
1コースあたりの実訓練時間数が10時間に満たないと、対象になりません。単発のセミナーや、数回のお試し講座では届かないということです。
時間に直すと、90分の講師派遣なら7回で10.5時間、40分のレッスンなら15回で10時間になります。週1回の講師派遣であれば、2か月弱で条件を満たす計算です。研修プランを組むときは、まずこの10時間を目安にしてください。
就業時間外に実施してしまう
所定労働時間外や休日に実施した訓練は、原則として対象になりません。「終業後に会議室で」という進め方は、そのままでは助成の対象外です。
どうしてもその形で実施したい場合は、就業規則の振替規定などとの整合性を確認する必要があります。ここは社会保険労務士に相談すべき論点だと思います。
出席率が足りない
通学制の場合、受講者は実訓練時間数の8割以上を受講している必要があります。10時間の研修なら、8時間以上の出席です。
研修は始めたものの、業務が忙しくて後半は誰も来なくなった。これは助成金以前に、研修そのものがうまくいっていないサインでもあります。出席率については、研修会社側にレポートの提出を求めておくと確実です。
申請から受給まで
大まかな流れは次のとおりです。
- 事業内職業能力開発計画を作成し、職業能力開発推進者を選任する。助成金を受ける前提として、社内でこの2つが整っている必要があります。
- 職業訓練実施計画届を労働局へ提出する。訓練開始日の6か月前から1か月前までです。
- 計画に沿って訓練を実施する。出席簿、カリキュラム、支払いの記録を残します。計画と実態がずれると支給されません。
- 訓練終了後2か月以内に、支給申請書を提出する。期限を過ぎると受け取れないため、終了時点でスケジュールを押さえておきます。
- 審査を経て、助成金を受給する。支給までには数か月かかるので、研修費用はいったん立て替える前提で予算を組んでください。
検討を始める前に、確認したいこと
社内でざっと確認していただくとすれば、次のあたりでしょうか。
- 雇用保険の適用事業所か
- 受講予定者の職務と、中国語の必要性を説明できるか
- 研修を10時間以上の計画として組めるか
- 就業時間内に実施できるか。難しい場合、振替の規定はあるか
- 開講希望日まで、まだ1か月以上あるか
すべてに「はい」と答えられるなら、申請できる可能性は高いと考えてよいと思います。どこか一つでも引っかかるところがあれば、そこが検討の論点になります。
おわりに
助成金が使えると分かると、社内の議論は進みやすくなります。「研修に予算をかけていいのか」という問いが、「実質いくらで、いつから始めるか」という問いに変わるからです。私たち自身、日本語研修を始めるときにそうでした。
一方で要件は細かく、年度ごとに変わります。この記事も、あくまで検討を始めるための整理にすぎません。イーチャイナでは提携の社会保険労務士法人と連携し、対象になるかどうかの確認から、カリキュラムの組み立て、計画届の作成までお手伝いしています。自社で申請した経験があるぶん、実務の勘所はお伝えできると思います。
中国語研修をご検討で、助成金の活用も視野に入れていらっしゃるなら、開講希望日の2か月以上前にご相談ください。この記事が、その一歩のきっかけになれば幸いです。
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厚生労働省「人材開発支援助成金」制度ページ/人材育成支援コース(令和8年8月3日版)/事業展開等リスキリング支援コース(令和8年8月3日版)/人への投資促進コース(令和8年8月3日版)/支給要領(令和8年8月3日)/(公財)東京観光財団インバウンド対応力強化支援事業補助金
助成金を使えるかどうか、まず確認してみませんか。
イーチャイナは提携の社会保険労務士法人と連携し、対象可否の確認からカリキュラムの組み立て、計画届の作成までサポートしています。開講希望日の2か月以上前にご相談ください。