| “池袋中国語コラム”とは・・・ |
中国語学習者のための”池袋発”中国語学習に役立つコラムです。中国に関することだけでなく様々な話題を中国語を交えて紹介していきます。このカテゴリーでは、中国の歴史・芸術・伝統に関する文化情報を提供しています。
【京劇の世界をのぞいてみよう】
中国語を勉強している皆さんは、「中国文化」と聞いて何を思い浮かべますか。中国料理、中国茶、太極拳、春節……。中国には、長い歴史の中で育まれてきたさまざまな文化があります。その中でも、ぜひ一度実際に見てほしいのが京劇です。
2026年11月には、桜美林大学で京劇による『西遊記』の公演が予定されています。日程や会場などの詳細は、大学の告知をご確認ください。今回は、この公演をきっかけに、京劇の世界を少しのぞいてみましょう。

「京劇」って何?
京劇は、中国の伝統演劇のなかで非常に重要な位置を占める、中国を代表する舞台芸術です。中国語では「京剧(jīngjù)」といいます。「京」は北京、「剧」は演劇を意味します。
京劇は清代に北京を中心として発展し、地方のさまざまな伝統芸能の要素を取り入れながら、現在の形へと育っていきました。2010年には、ユネスコの「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に登録されています。日本でいうなら、歌舞伎や能に近い存在だと考えると、イメージしやすいかもしれません。
4つの役柄
京劇の登場人物は、大きく4つの役柄に分類されます。舞台に誰かが出てきたら、まずこの4種類のどれかを見分けてみると、物語の展開が予想しやすくなります。
生(shēng) 男性の主要な役。文官タイプの「文生」、武術に優れた「武生」などに分かれます。孫悟空はこの武生に近い、猿を演じる専門ジャンル「猴戏(hóuxì)」に属します。
旦(dàn) 女性役。かつては男性が演じるのが伝統で、名優・梅蘭芳もその一人でした。現在は女性が演じるのが主流で、男性が演じる「男旦」は貴重な存在となっています。
净(jìng) 隈取りをした豪傑や悪役。力強い発声と大きな所作が持ち味です。
丑(chǒu) 道化役。コミカルな動きで笑いを誘います。
隈取り(脸谱)
净や丑の役柄が顔に施す色鮮やかな化粧を「脸谱(liǎnpǔ)」と呼びます。これは単なる装飾ではなく、その人物の性格を表す記号です。

赤は忠誠と勇敢さを表し、関羽が代表例です。白は狡猾さや陰険さ、黒は実直で剛直な性格を意味します。金や銀は神仏や妖怪を表します。

『西遊記』には牛魔王をはじめ、さまざまな妖怪が登場します。隈取りの色を見比べるだけでも、誰が何者なのかが見えてきて楽しめます。
「虚実相生」の舞台
京劇の舞台には、リアルな背景セットがほとんどありません。一本の鞭は「馬に乗っていること」を表し、旗を持った4人の兵士役が「大軍」を表します。すべてを実際に用意するのではなく、役者の動きによって観客に想像させる――これを「虚实相生(xū shí xiāng shēng)」といいます。
西洋の写実的な舞台とは対照的な、中国演劇独自の美意識といえます。同じような表現は日本の歌舞伎にも見ることができ、この「想像する」という楽しみ方も、伝統芸能ならではの魅力の一つです。
楽器
京劇の音楽を支えるのが、京胡(jīnghú)・太鼓・铜锣(tóngluó)といった楽器です。

京胡は二胡より小ぶりで、張りつめた高い音色が特徴の弦楽器。歌の伴奏の中心を担います。太鼓と銅鑼は、立ち回りの緊迫感や場面の転換を打ち出す、いわば舞台の呼吸です。この独特の響きを聴くだけでも、京劇を観た実感が残ります。

初めて観る人へ
言葉が分からなくても心配はいりません。京劇はもともと、せりふの意味以上に「見て楽しむ」演劇です。次の4点に注目すると、初心者でも十分に楽しめます。
衣装の色と模様 身分や性格を表しています。
立ち回りの技 跳躍、とんぼ返り、剣や棍棒さばき。『西遊記』はここが見どころです。
音楽 京胡の高い音色と、太鼓・銅鑼のリズム。
顔の隈取り 登場人物の性格を予想する手がかりになります。
京劇と歌舞伎の共通点
京劇と歌舞伎には、実は多くの共通点があります。どちらも長い歴史を持つ伝統芸能で、独特の化粧や衣装があり、「型」と呼ばれる決められた動きを大切にしています。音楽も重要な役割を果たし、登場人物の性格や身分を衣装や化粧で表現する点も同じです。
さらに、どちらにも男性が女性役を演じる伝統があります。そして「童子功(tóngzǐgōng)」、つまり幼い頃から基礎訓練を積み重ねるという考え方も共通しています。歌舞伎を知っている方なら、京劇の約束事はきっと入りやすいはずです。
おわりに
京劇は200年あまりの歴史を持ちながら、今なお進化を続ける生きた伝統芸能です。11月の公演では、孫悟空が繰り広げる華麗な立ち回りと、京劇ならではの様式美をぜひ間近で体感してみてください。事前に少しだけ知識を持って観劇すると、舞台上の一つひとつの動きが、より豊かな意味を持って見えてくるはずです。
そして機会があれば、隈取りのメイクを体験してみたり、京劇の基本動作を真似してみたりするのもおすすめです。観るだけでなく体で感じることで、この伝統芸能の奥深さがより身近に感じられるでしょう。