“池袋中国語コラム”とは・・・ |
中国語学習者のための”池袋発”中国語学習に役立つコラムです。中国に関することだけでなく様々な話題を中国語を交えて紹介していきます。このカテゴリーでは、中国赴任や出張などビジネス向けの方にお勧めの情報・ノウハウを提供しています。
【六朝古都:南京】
日本人からすると中国侵略の象徴的な都市として南京は近寄りがたいイメージが強い方が多いと思います。実際はどうでしょうか。南京(nán jīng)は緑の街路樹が町全体をおおい、静かで落ち着いた古都です。西から北へ長江が折れ曲がるように流れ、東は小高い丘陵に囲まれています。
春、山野は梅や桃の花が彩り、郊外は菜の花の黄色で埋め尽くされます。
杜牧は漢詩「江南の春」で、南京の美しさをつぎのように詠っています。
千里鶯鳴いて 緑 紅に映ず
水村 山郭 酒旗の風
南朝 四百八十寺(ししゃくはっしんじ)
多少の楼台 煙雨の中(うち)
南京は三国時代から何度も都がおかれました。
呉、南朝、明、そして中華民国。
美しい自然と古くからの歴史は、現代の南京に受け継がれ観光の名所になっています。
よく知られた定番観光スポット、ちょっと渋いB級観光地、知る人ぞ知る秘密の観光名所。
順にご紹介しましょう。
~南京概要~
南京は江蘇省の省都であり、古くから長江流域・華南の中心地でした。かつては金陵、建業、建康とも呼ばれ、朱元璋の明時代に中国で初めて南京が首都となりました。中国の4大古都(西安・北京・南京・洛陽)の一つであり、重慶と武漢とともに暑さで有名な3大都市(三大火炉)です。一方では、並木と城壁に囲まれた中に多くの緑地があり、暑くはあるが落ち着いていて清潔な都市です。
近代に入ってからはアヘン戦争の講和条約締結地になったり、孫文が清王朝を倒して中華民国臨時政府を置いた所でもあります。欧米列国や日本の侵略にさらされ、度々胸の痛い歴史の現場となりはしたものの、依然として長い歴史を秘めた古城としての姿をとどめています。
●日本とのアクセス(2020.1月時点)
・成田、関西、新千歳、那覇空港から直行便が運航しています。成田から2時間50分。
・中国内都市で乗り継ぐ場合、北京から1時間30分、広州から2時間。
・高速鉄道で上海虹橋駅から南京南駅まで1時間20分。
●南京市内移動
・地下鉄10路線が運行中。分かりやすく便利です。
・タクシーは空港、駅、ホテルなどから利用できます。市内を流している車も多い。メーター制で騙されることはありません。
ただし朝夕のラッシュ時と雨の日は、奪い合いになります。スマホのタクシー配車アプリを利用すると便利です。
●観光シーズン
・春と秋が観光のベストシーズンです。
・夏は避けるのが無難です。南京は、武漢、重慶とともに三大鍋と呼ばれ、高温で蒸し暑い。
7月下旬が暑さのピークで、8月に入ると多少気温が下がりはじめ、8月中旬にはかなり過ごしやすくなります。
・冬は寒いが、雪はめったに降りません。人混みを避けた冬の旅行も一法です。
ただし春節休暇の前後は、交通機関、ホテル、観光地は殺人的な混雑に見舞われます。
~観光~
必ず行きたい南京定番観光地ベスト3
まず初めに、南京で必ず行きたい定番の観光地を3つご紹介します。
中山陵 (Zhōng shā n líng)
中山陵は「中華民国の国父」孫文の陵墓です。遺言により南京紫金山に陵墓が造営され葬られました。
孫文(1866年~1925年)は三民主義を掲げ、1911年辛亥革命を指導し、清王朝を倒しました。中国に数千年続いた王朝支配に終止符を打ち、民主国家建設への扉を開きました。
中山陵は規模が大きく、頂上の祭堂に至るには、長い参道を通り、門をくぐり、392段の階段を登らなければなりません。祭堂の入口に三民主義の「民主」「民権」「民生」と書かれた額が掲げられ、中には孫文の大きな座像、さらに奥に棺が安置されています。
見学を終え祭堂を出て、登って来た階段を見下ろすと、絶景が広がります。周囲は一面の深い森に覆われ、その向こうに南京市街を見晴らすことができます。
なお中山陵は、明孝陵、霊谷寺、音楽台、孫中山記念館とともに「鐘山風景名勝区」と呼ばれ、南京最大の観光地です。
【アクセス】
地下鉄2号線苜蓿园駅で下車し、1号出口から出てください。
「観光車」と呼ぶ遊園地のミニ列車のような乗り物で移動し、中山陵南駅で降ります。
【重要な情報】
2018年6月から、中山陵入場は事前予約が必要です。入口付近のチケット・センターで当日予約も可能ですが、4~5時間待ちなどのケースがありますので事前予約をおすすめします。
【雑学】
孫文の号は中山。中国や台湾では、孫中山の呼び方が一般的です。多くの都市に、中山路や中山公園があります。彼がいかに尊敬されているか分かります。
明孝陵 (Míng xiào líng)
明孝陵は明王朝の初代皇帝洪武帝(朱元璋)の陵墓です。
2003年世界文化遺産に登録されました。
明孝陵は、「石像路」と呼ばれる長い参道を通り、巨大な「方城」を経て、「明太祖の墓」に至ります。石像路は両脇に、獅子、駱駝、象、馬などの実物大の石像が並び、何故かペルシャ、インド、中央アジアの匂いを感じさせます。
また場所は特定されていませんが、近くに三国志で有名な呉の孫権の墓があったとされます。
【アクセス】
中山陵と同様、地下鉄2号線苜蓿园駅で下車し、「観光車」で明孝陵駅へ行きます。
中山陵から明孝陵へ移動することもできます。
【雑学】
第三代皇帝永楽帝以降、13人の皇帝は北京郊外「明の十三陵」に眠りますが、初代洪武帝は当時首都の置かれた南京に葬られました。
それでは第二代の陵墓は? 第二代恵帝は永楽帝との権力闘争に敗れ帝位を奪われたため、陵墓の所在は今も不明です。
南京大屠殺記念館(nán jīng dà tú shā jì niàn guǎn)
中国語の正式名称は、侵华日军南京大屠杀遇难同胞纪念馆(Qīn huá rì jūn Nán jīng dà tú shā yù nàn tóng bāo jì niàn guǎn)といいます。
南京大虐殺とは、1937年12月日本軍の南京占領作戦時に、中国軍の捕虜や一般市民を無差別に暴行し殺傷したといわれる事件です。中国は犠牲者30万人としています。
内部は、資料陳列ホール、遺跡区、遺骨館、万人坑遺跡、慰霊施設などからなり、見ごたえがあります。思想や信条はどうあれ、この記念館は一度は訪れる価値があります。
【アクセス】
地下鉄2号線云锦路駅下車。
【雑学】
1937年12月13日は南京陥落の日です。12月13日は今でも市内で、「この日を忘れるな」という意味のサイレンが一斉に鳴り響きます。日常、南京は特に反日感情が強いわけではありませんが、この日ばかりは日本人は目立たないようにしています。
ちょっと渋いB級観光地3選
つぎに、味のあるちょっと渋い観光地を紹介します。
総統府(总统府Zǒng tǒng fǔ)
総統府は中華民国の政府が置かれたところです。
入口を入ると、有名な「天下為公」の額がかけられています。
内部は思いのほか広く、池や緑地が広がる敷地に多くの建築物が点在します。
中国風の四合院や西洋風建築物があり、華洋折衷ともいうべき建築群です。
ここが中華民国総統府として使われたのは2度。1度目は1912年1月孫文が臨時大総統になった時。そして2度目は1948年5月蒋介石が中華民国総統になった時です。
2度とも短期間しか使われませんでした。
【アクセス】
地下鉄2号線大行宮駅下車。
【雑学】
清朝の時代、一時的に太平天国が南京を占領し、名前を天京に変えて首都としました。総統府の場所に天朝宮殿が置かれましたが、清が南京を奪回すると焼き払われました。南京に首都を置く政権は、短命に終わるようです。
南京長江大橋(南京长江大桥NānjīnChángjiāngdàqiáo)
南京長江大橋は、長江の南北を結ぶ自動車・鉄道両用橋です。
長江は川幅が広いため架橋が難しく、1957年初めて武漢に長江大橋が架けられました。2番目は1959年重慶の白沙陀長江大橋です。これらは旧ソ連の援助で完成しました。
3番目が1968年完成の南京長江大橋です。中ソ対立で、中ソ技術協定は破棄され、中国の自力更生で完成されました。
橋のたもとに大橋公園があり、エレベーターで橋の上に登れます。
橋から長江の雄大な流れを眺めると、中国の悠久の、そして激動の歴史に思いが巡ります。
【アクセス】
地下鉄3号線上元門駅下車
【雑学】
現在、中国の経済発展によって長江には多くの橋がかけられていますが1997年のかつては、南京より下流に橋はなく、無錫で艀(はしけ)にマイクロバスを乗せて長江を渡りました。渡河地点には順番待ちの車が、延々数キロの列を作っていました。
玄武湖(Xuán wǔ hú)と明代の城壁(明代的城墙Míng dài de Chéng qiáng)
玄武湖は南京駅のすぐ目の前にあり、一帯は広い公園になっています。
公園は市民の憩いの場で、犬の散歩、凧揚げ、ダンスをする人たちで賑わっています。
玄武湖を取り巻くように、明代の城壁が残されています。
城壁の観光は、中華門や台城(明城垣史博物館)が有名です。
しかし、わざわざ有名観光地に足を運ぶ必要はありません。
玄武湖の湖畔には、城壁に沿って樹林のなかに遊歩道が作られベンチが置かれています。
ぶらぶら散歩しながら、城壁の大きさを身近に体感できます。
【アクセス】
地下鉄1号線玄武門駅下車
【雑学】
南京市中心部は、高架の道路や鉄道がありません。玄武湖を渡る自動車道も湖の地下を通っています。このため都市の景観が壊れることなく、南京は落ち着いた古都の風情が保たれているのです。
知る人ぞ知る秘密の観光名所
最後に、あまり知られていない秘密の観光名所をお教えします。
高淳老街(Gāo chún lǎo jiē)
南京市の南部、長江支流の水陽江、個城湖、石臼湖に囲まれた一帯は、「魚米の郷」と呼ばれる水郷地帯です。
その一角の鄙(ひな)びた小村に残るのが、高淳老街です。
明代清代からの商店街を整備したもので、店の軒先には、鯉などの淡水魚、蟹、ナマズ、鶏、野菜類などが商われています。
道の幅は4~5m、5分ほどで通り抜けできる短い通りですが、商売のかしましい喧噪と熱気にあふれています。
【場所】
・南京市高淳区淳興路
・南京中心部からバスまたはタクシーで約1時間30分
【雑学】
石臼湖は淡水真珠の養殖が盛んです。高淳老街の専門店で、驚くほど安く販売されています。
ただし、きれいな真珠を見つけるのは難しく、ゆがみ、へこみ、きず、ピンホールなどはあたりまえです。
過度に期待しないほうがよいでしょう。
中山北路(Zhōng shān běi lù)の国民政府建築物(国民政府建筑物Guó mín zhèng fǔ jiàn zhù wù)
中山北路は、鼓楼広場から中山桟橋に至る5.5kmの通りです。
国民政府時代、政府の重要機関が置かれ、今も往時をしのぶ建物が残されています。
鼓楼広場から出発すると、まず右手に現れるのが国民政府外交部。現在は江蘇省人民大会常務委員会の建物として使われています。
つぎに左手に、かつて国民政府の招待所であった江蘇議事園。現在は近代的な高層ビルをもつホテルになっています。江蘇省共産党の経営です。
さらに進むと、レストラン、喫茶店、家電販売店などが入る軍人倶楽部があります。ここは国民政府立法院監察院がありました。
中山北路の終点の中山桟橋は長江に面し、対岸への連絡船が出ています。
【アクセス】
地下鉄1号線鼓楼駅下車
【雑学】
軍人倶楽部近くの人和街一帯は、国民政府の高級軍人の邸宅跡が点在しています。このため、軍人倶楽部は旧軍政部の建物と思い込んでいましたが、そうではないようです。なぜ軍人倶楽部と言うのか、地元の人に聞いても分かりません。
李白記念館(lǐ bái jì niàn guǎn)
最後は南京を離れ、お隣の安徽省馬鞍山市の李白記念館を紹介します。
唐の詩人李白は、馬鞍山で多くの詩を詠み、最後は酒に酔い長江の川面に映る月を取ろうとして溺れ死んだと伝えられます。真実は不詳ですが、酒鬼や酒仙と呼ばれる李白の最後にふさわしい伝説です。
李白記念館の敷地は広く、李白の墓、月を取ろうとした捉月台、小高い丘の上に建てられた太白楼など見どころ一杯です。日本からも漢詩ファンが訪れるようです。
【アクセス】
・南京南駅から馬鞍山東駅まで高速鉄道で17分。
・南京中心部から馬鞍山まで車で1時間余り。
【雑学】
李白記念館は長江のほとりにあります。意外と近くに対岸が見え、長江の川幅もたいしたことないなと思ったら、とんでもない間違いでした。見えたのは中洲で、中洲の向こうに本格的な長江の流れがあるそうです。
~南京の名物料理~
最後に、南京を訪れたら是非食べてほしい名物料理を3つ紹介します。
南京料理は、中国八大料理の一つ江蘇料理に分類されます。
麻辣の四川料理、唐辛子の辛さの湖南料理、薄味の広東料理のような特徴はありません。
それだけ万人向きと言えます。
定番「南京ダック」(盐水鸭Yán shuǐ yā)
南京料理といえば、誰でも必ずあげる定番が南京ダック(塩水鴨)です。
北京ダックとは何の関係もありません。
北京ダックは香ばしい皮を尊びますが、南京ダックは塩ゆでされた身そのものを食べます。
南京のお酒文化は、紹興酒文化圏を外れ白酒文化圏に入ります。しかし、まるで燻蒸されたような南京ダックの薄塩味は、紹興酒によくあいます。
B級グルメ「獅子頭」(狮子头Shī zi tóu)
獅子頭は、ひき肉にネギやショウガなどを練りこんで、こぶし大の肉団子にした料理です。淡泊なスープに肉団子を入れて、土鍋に弱火でコトコト長時間加熱してつくる清獅子頭が最もシンプルでポピュラーです。
正確には、江蘇料理の一派の揚州料理に起源がありますが、南京の地元の人達は「南京名物料理」と言って勧めてくれます。
知る人ぞ知る「タケノコ料理」(笋菜Sǔn cài)
南京の周囲は竹林が多く、そのため美味しいタケノコの産地です。
日本と同じ太いタイプもありますが、細長く成長する篠竹のタケノコを使った料理が有名です。
ホウレンソウ、大根、黒キクラゲなどと一緒に炒める、混雑炒め「素什錦」(Sùshénjǐn)は一般家庭でもよく作られます。
おわりに
日本語には、「南京〇〇」という言葉がたくさんあります。南京虫、南京豆、南京錠、南京街など。ここでの南京は、「中国」とか昔の「支那」を代表する意味で使われています。
それだけ日本と南京の結びつきは強いはずですが、日本人の南京への関心が低いことは残念です。
中国語は一つの町毎に異なる方言があると言われます。南京は北京から遠く離れていますが、何故か普通話に近い言葉が使われます。ところが南京語には、北京語に独特な発音がありません。
南京人は有気音と無気音を区別できません。南京人は-ngと-nの発音を区別できません。南京人にそり舌音はありません。
日本人の中国語学習者にとって、南京語は学びやすい普通話です。
杭州、蘇州、無錫は観光名所に恵まれ、多くの日本人観光客が訪れます。公平に見て、南京の観光名所は決して見劣りしません。
それなのに、日本の旅行会社が主催する中国観光ツアーに南京が組込まれることはありません。
南京は歴史、文化、自然、グルメに恵まれた魅力の地です。
皆さん、是非南京を訪れ自分の目でその素晴らしさを確かめてください。