「来月から中国駐在」「半年後に上海へ」。辞令が出たあと、ご本人は引き継ぎとビザの手続きに追われます。その横で、人事や総務のご担当者には別の段取りが発生します。語学研修をどうするか、です。
赴任前の中国語研修は、通常の企業研修とは決め方が違います。期間が区切られていて、対象者が一人か数人で、しかも急いでいる。ご相談をいただくときも、「何から手配すればいいですか」という形で始まることがほとんどです。
この記事は、赴任される方ご本人ではなく、手配する側に向けて書いています。ご本人向けの準備の進め方は急な中国赴任が決まったらにまとめてありますので、対象者にはそちらをお渡しください。

1|辞令が出たら、出発までの日数を数える
最初にやっていただきたいのは、出発日の確認です。ここで手配の選択肢がほぼ決まります。
私たちにご相談いただくケースは、辞令から出発まで3か月から半年というあたりがいちばん多い印象です。この期間は、実は都合がいい長さです。
助成金を使う場合、職業訓練実施計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ提出する必要があります。3か月から半年あるということは、この提出期限にちょうど収まるということです。辞令が出た時点で動き出せば、赴任前研修でも助成金を使える可能性があります。
逆に、出発まで1か月を切っている場合、助成金は諦めることになります。計画届が間に合わないからです。この場合は費用を全額自社で見たうえで、短期集中でどこまで詰め込むかという話になります。
ですので、出発日が決まった時点で研修会社に声をかけていただくのがいちばんです。カリキュラムを固めて計画届を作るまでにも時間がかかるので、開講したい日の2か月以上前が目安になります。助成金の要件については対象になる研修と、ならない研修に整理しました。
2|赴任前に、どこまで行けるのか
期間が決まったら、次は到達点の見立てです。ここで期待値を合わせておかないと、あとで「研修を受けたのに話せない」という話になります。
正直に申し上げると、3か月で商談ができるようにはなりません。中国語の学習時間の目安として、日常会話レベルに届くまでが150時間程度です。週2回のレッスンを3か月続けても、20時間から30時間といったところでしょうか。
ではその時間で何ができるのか。発音の土台と、生活で使う場面の型です。ピンインと四声を身につけて、挨拶、数字、買い物、移動、食事といった決まった場面のやり取りを覚える。ここまで行けば、着任直後のストレスがまったく違います。
もうひとつ、見落とされがちな効果があります。赴任前に発音の基礎を作っておくと、現地に着いてからの伸び方が変わります。耳ができているので、周りの中国語が音として聞き取れるようになる。最初にカタカナで覚えてしまった人は、この土台がないまま現地に入ることになります。
つまり赴任前研修は、それ単体で完結させるものではなく、現地での学習の効率を上げるための準備だと考えていただくのが実態に近いと思います。

3|費用の目安
赴任前研修は対象者が一人か数人なので、マンツーマンで組むことがほとんどです。実際にご提案した例を2つ挙げます。いずれも入学金と教材費を含んだ総額です。
| ケース | 内容 | 総額(税込) |
|---|---|---|
| 北京へ赴任される方の ご家族(初学者) |
40分×24回 発音、挨拶、自己紹介、数字と値段、時間、飲食、買い物 |
142,180円 |
| 上海へ赴任される ビジネスパーソン(中上級) |
80分×23回 電話応接、商談、プレゼン、ビジネスメール、トラブル対応、顧客接待 |
249,320円 |
もっと短期間で仕上げたい場合は、1日5時間×10日間で50時間の基礎力習得講座(365,250円)、同じく20日間で100時間の日常会話マスター講座(672,060円)もご用意しています。出発まで1か月を切っているようなケースでは、この形になることもあります。
この金額をどう見るかですが、赴任にかかる費用全体のなかで考えていただくとよいと思います。引っ越し、ビザの手配、住居の準備と、中国赴任は一人あたり百万円単位の費用が発生するはずです。そのなかで語学研修が十数万円から二十数万円というのは、現地での立ち上がりを左右する投資としては、判断しやすい金額ではないでしょうか。
実際、ここに厚く投資される企業もあります。ある大手商社では、赴任予定者を2年間、会社の経費で中国に留学させていました。さすがにここまでできる会社は多くないと思いますが、語学の準備をどこまで会社が持つかという考え方には、それだけ幅があるということです。
4|帯同するご家族は、助成金の対象外
ここは知らないと申請でつまずく点なので、先にお伝えします。
人材開発支援助成金の対象になるのは、雇用保険の被保険者です。赴任されるご本人は対象になり得ますが、帯同されるご家族は被保険者ではないため、対象になりません。ご家族のレッスン費用を合算して申請すると、そこだけ差し戻されることになります。
ですので、お見積りの段階から本人分と家族分を分けておくことをお勧めしています。私たちも赴任前のご相談では、最初から分けてお出ししています。
5|帯同するご家族をどう扱うか
助成金の対象外だからといって、ご家族の研修を外す判断はお勧めしません。
現地の生活で中国語を一番使うのは、実はご家族のほうだからです。買い物、学校とのやり取り、病院。ご本人は職場に通訳や日本語のできるスタッフがいることも多いのですが、ご家族にはそれがありません。言葉が通じないまま生活が始まると、帯同されたご家族が孤立してしまうことがあります。
費用の負担をどうするかは会社によりますが、中国赴任の場合は会社が全額負担されるケースが多いように感じます。赴任そのものにかかる費用を考えれば、ご家族の語学研修まで含めても全体の一部ですし、ご家族が現地になじめるかどうかは、結局のところ赴任が続くかどうかに直結します。
社内の規定で判断が分かれる部分だと思いますので、対象者が決まった段階で、ご本人とご家族の両方を見積もりに入れた形と、ご本人だけの形の2通りをお出しすることもできます。
6|実施の時間帯で、確認しておくこと
赴任前研修は、引き継ぎと並行して進むことがほとんどです。そのため、終業後や休日に組みたいというご要望をいただくことがあります。
ここは助成金を使う場合に確認が要る点です。所定労働時間外や休日に実施した時間については、賃金助成の対象になりません。また、業務として命じる研修は労働時間として扱われるため、その時間の賃金を支払う必要があります。
経費助成まで含めてどう扱われるかは、実施の形や就業規則の定め方によって変わってきます。時間外での実施をお考えの場合は、計画を固める前に社会保険労務士か管轄の労働局にご確認ください。イーチャイナでも提携の社会保険労務士法人と一緒に整理をお手伝いしていますので、ご相談いただければと思います。
なお、助成金を使わない場合はこの制約がありません。出発まで時間がないケースでは、時間帯を柔軟にして回数を確保するほうが、結果として得になることもあります。
7|現地に着いてから探すのでは遅い
「向こうに行ってから習わせればいい」というお考えもあると思います。実際にそうされた企業から、あとでご相談をいただくことがあります。
現地で学ぼうとすると、いくつか壁があります。良い講師を探すこと自体が大変です。見つかっても日本語が通じるとは限らず、日本語対応の教材も限られます。そして何より、着任直後は住居の手配や業務の立ち上げで、落ち着いて学習を始められる状態ではありません。
結果として、学習を始めるのが半年後、一年後になり、その間は通訳頼みで過ごすことになります。日本国内であれば、日本語で説明を受けながら、日本語対応の教材で学べます。この差は小さくありません。
おわりに
赴任前の語学研修は、期間が区切られているぶん、手配の判断が早いほど選択肢が増えます。出発まで3か月から半年あるなら、助成金まで含めて組み立てられます。
対象者が決まっていない段階でも、「この時期に何名か出す予定がある」というところからご相談いただいて大丈夫です。出発日から逆算して、回数と内容、ご家族の扱い、助成金を使う場合の段取りまで、あわせてご提案します。この記事が、社内で手配を進めるときの材料になれば幸いです。
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出発日が決まった時点で、ご相談ください。
赴任先、出発予定日、対象者の現在のレベル、ご家族の帯同の有無。この4点をお聞かせいただければ、回数と内容、概算の費用をご提案します。助成金を使う場合の期限も、あわせてご確認します。